高校野球あれこれ　第234号: ぼくらのサイトⅡ

2025年09月09日

高校野球あれこれ　第234号

今年は「甲子園ロス」が少ない？
有望2年生目白押しだった今夏、来年へ楽しみしかない！

　第107回夏の選手権は、沖縄尚学が日大三（西東京）に3－1で勝って、夏の初優勝。センバツも合わせると、3度目の甲子園制覇となった。沖縄勢では15年前に興南が春夏連覇を果たしていて、県別優勝回数5回となり、全国11位タイに浮上。これで4回で並んでいた福岡を抜き、九州勢では首位に立った。

沖縄尚学を支えた左右の両輪
　優勝の立役者は、何といっても末吉良丞と新垣有絃の2年生左右両輪だった。比嘉公也監督（44）がめざす、バッテリーを中心とした守りの野球は、この2人がいなければ体現できない。初戦の金足農（秋田）に、末吉が3安打完封の1－0で勝ち、「（大会に）いい入りができた」と比嘉監督。分岐点となった仙台育英（宮城）との3回戦は、末吉が11回を169球の熱投で辛くも振り切ったが、体力的に末吉はこの試合がピークだった。ここでチームを救ったのが新垣有で、中1日で迎えた準々決勝の東洋大姫路（兵庫）戦に先発して、6回を本塁打による1失点にまとめた。

横浜戦の悔しさから二枚看板誕生へ
　実は新垣有は、センバツ2回戦の横浜（神奈川）戦で先発し、初回に死球からピンチを招いて阿部葉太（3年＝主将）にライナーの特大3ランを浴びていた。この試合、新垣有は初回で降板し、末吉に大きく水をあけられた。それでも比嘉監督は「あの悔しい投球が成長させるはず」と、夏までの奮起に懸け、新垣有を2回戦の鳴門（徳島）戦で先発起用した。新垣有は期待に応え、5回無失点の好投。この結果がなければ、比嘉監督も東洋大姫路相手に先発させる勇気は出なかっただろう。末吉が終盤の3回を抑え、2－1で近畿王者を破って、真の二枚看板が誕生した。

山梨学院の菰田は故障の回復がどうか
　さてこの沖縄尚学二枚看板を始め、今大会は2年生の活躍が目立った。準決勝で沖縄尚学に逆転負けした山梨学院では、投打で躍進の原動力となった菰田陽生と、左腕・檜垣瑠輝斗が新チームでも中心となる。菰田は沖縄尚学戦の初回にヒジ痛を発症して経過が心配されるが、降板後は「問題ない」（本人談）として一塁の守備につき、バットで奮闘した。菰田に無理させられないとしても、檜垣は制球に不安がなく、秋にこのクラスの左腕を攻略できる打線はまずないだろう。

横浜は織田に加え、池田と小野にも期待
　春夏連覇を狙った横浜では、最速152キロ右腕の織田翔希（タイトル写真）が、全国最注目の存在となるだろう。センバツでは調整不足もあって本来の投球からはほど遠かったが、夏には完全復調。2試合で完封するなど、大舞台での強さも発揮した。150キロ超の直球だけでなく、チェンジアップやカーブを巧みに使う緩急自在の投球が持ち味で、変化球の精度も上がった。本職は遊撃手で、2回戦の綾羽（滋賀）戦で先発（3回1失点）した池田聖摩は、投打に磨きをかけ、強打の一塁手・小野舜友は、新チームでも中軸を任される。

県岐阜商は2年生投手陣が残る
　その横浜を延長タイブレークの死闘で破り、全国のファンを感動させた県岐阜商の投手陣は2年生だった。エースの柴田蒼亮と、横浜を5回無失点に抑えた左腕の渡辺大雅のコンビが新チームも健在。横浜戦で最後に投げ、勝利投手となった右腕・和田聖也と、明豊（大分）との3回戦で先発した大型左腕の豊吉勝斗も残る。攻守でチームを引っ張った遊撃手の稲熊桜史、3番を打った内山元太ら、今夏の県岐阜商はベンチ入り20人中、9人が下級生という若いチームでもあった。歴代4位の甲子園91勝の名門の完全復活は、新チームに託される。

日大三の田中は全国屈指の強打者
　本大会で好投し俄然、注目を浴びたのが聖隷クリストファー（静岡）の左腕・高部陸で、直球はコンスタントに140キロ台中盤を計測する。変化球も多彩で制球の不安もなく、完成度が高い。本大会では指の不調で早期降板となったが、高知中央の速球派右腕・堅田徠可と、背番号「1」を背負った松浦伸広は、甲子園初戦敗退の雪辱を誓う。そして忘れてはいけない。全国屈指の強打者がいた。準優勝した日大三の4番・田中諒だ。今大会2本塁打は彼だけで、決勝では沖縄尚学の2年生両輪に抑えられ、悔し涙に暮れた。またこの対決を甲子園で見てみたい。

例年以上に楽しみなこの時期
　毎年この時期は、「甲子園ロス」になるファンが続出する。筆者も例外ではない。ただ、楽しみも例年以上だということを付け加えたい。また見たい選手が、いつもより断然、多いからだ。甲子園に出ていない選手ももちろんいるし、1年生の有望選手だって活躍した。センバツを懸けた秋の戦いは、もう始まっている。