高校野球あれこれ　第213号: ぼくらのサイトⅡ

2025年03月27日

高校野球あれこれ　第213号

初の甲子園でベスト４に進出。
浦和実業の歴史を作ってきた辻川正彦監督とは？

近くて遠い存在だった浦和学院
春・夏通じて初の甲子園でベスト4に進出。春の選抜での浦和実業の躍進が目覚ましい。もともと浦和実業は地力がある。昨秋の関東大会でも4強になり、準決勝では明治神宮大会王者の横浜高相手に2対3と演じた。

ただ、全国的には無名であるのは否めない。ある放送では、校名を春・夏通算26度甲子園出場の「浦和学院」と言い間違いをされる一幕もあった。

実は、学校から自転車で20分ほどの浦和実業のグラウンドと、浦和学院はさほど離れていない。路線バスに乗れば、浦和学院の最寄停留所まで5～6分で着く。

一方で、公式戦ではほとんど勝てなかった。浦和実業にとって、浦和学院は近くて遠い存在だったのである。

しかし、昨秋の県準決勝。石戸颯汰投手（新3年）が、厚い壁になっていた浦和学院相手に2安打完封勝利の大仕事をやってのける。すると浦和実業はここから波に乗り、「センバツ切符」を手にした。今大会のベスト4進出によって、浦和実業の名は全国に広く知られることになったが、ターニングポイントになったのは、浦和学院戦だった。

出身は東京の古豪・城西大城西高
浦和実業を1988年から主に監督として指導してきたのが辻川正彦監督だ（途中、総監督、部長を歴任）。高校は広島東洋カープなどでスピードスターとして活躍した高橋慶彦氏を輩出した城西大城西高。出身は埼玉・桶川だが、中学2年の夏（1979年）に城西大城西高が甲子園でベスト8になったのに感化され、東京・豊島区にある同校まで通った。

母校との「球縁」は今も続いている。外部コーチとして辻川監督をサポートしているのは、城西高野球部OBの藤野幸彦氏だ。藤野氏は、同校がエース・高橋慶彦氏を擁して、1974年夏に初めて甲子園に出場した時の主将であり、辻川監督にとっては在学時の恩師でもある。

国士舘大卒業後、保健体育科の教諭として赴任した当時は、深く高校野球に携わるつもりはなかったという。昨年11月に取材した際は「体育の先生をしながら、少し野球の指導もできれば、と。そのくらいのスタンスだったんです」と明かしていた。それが、気が付けばどっぷりと高校野球に浸かり、今年で38年目である。

この間、就任6年目の1993年秋に県準優勝とともに関東大会初出場を果たし、まずは県の実力校の仲間入り。2000年秋は関東ベスト8に進出し、翌春選抜の補欠校に。初の甲子園出場にあと1歩だった。

プロ（NPB）に選手を送り込んでもいる。現・埼玉西武ライオンズの豆田泰志投手は教え子。豆田投手がエースだった2019年春も関東8強になっている。

しかし、浦和学院や花咲徳栄高といった甲子園常連校に阻まれるなど、なかなか甲子園には届かなかった。

多岐に渡ってチームの取り決めがある
辻川監督は人当たりが柔らかく、話をしていると大らかな人柄が伝わってくるが、野球においてはかなり細かい。自ら「僕は相当細かいですから」と言う。プレーでの浦和実業としてのルールも、バントの形や走塁でのリードの仕方など、多岐に渡って、細かく設定している。

したがって、浦和実業に入った選手はまず、こうしたルールを順守することが、ルールを体現することが求められる。

甲子園では各選手ともノビノビとプレーし、好機では集中力を発揮しているが、ベースには辻川監督の細かさが、そして「浦和実業のルール」がある。

浦和実業は少子化の時代にもかかわらず、全校生徒数が2700人以上と、埼玉県下で有数の規模を誇る。準決勝もアルプス席は大応援団で埋まりそうだ。

浦和に「実業」あり―。その名をとどろかす戦いはまだ続く。