高校野球あれこれ 第206号

センバツ大阪勢ゼロの衝撃止まず!やはり大阪桐蔭が勝たないと!
かつてコールド負け→24連勝もあった!

 
 98年ぶりの大阪勢センバツゼロの衝撃は止まない。「大阪2強」と称される大阪桐蔭と履正社は、昨年まで14年連続で、いずれか、または双方がセンバツに出ていた。その2強が近畿大会で初めて、揃って初戦敗退。これ以上の波乱があるだろうか。特に気になるのが、20年近く高校球界の頂点に君臨し、全国のチームから憧れとともに、目標にもされてきた大阪桐蔭の不振だ。昨夏の甲子園では、2回戦で小松大谷(石川)にわずか5安打と抑えられ、0-3で完敗した。新チームとなった昨秋は、履正社に大阪大会決勝で敗れ、近畿大会でも滋賀学園に初戦敗退。6年連続のセンバツ出場を逃した。

この3年で甲子園を逃したのは1度だけ
 大阪桐蔭が不振と言っても直近の甲子園優勝が3年前のセンバツだから、ことさら声を大にするほどでもないのだが、あれだけの実績と陣容からすれば、甲子園に出るのは当たり前。早期敗退など許されない雰囲気が漂うのも、他校から畏怖の念を抱かれている証拠だろう。まずは近年の大阪桐蔭の成績と、各大会の最終試合を振り返ってみよう。

 22年春=優勝 〇18-1近江(滋賀)

 22年夏=準々決勝敗退 ●4-5下関国際(山口)

 23年春=準決勝敗退 ●5-7報徳学園(兵庫)

 23年夏=大阪大会決勝敗退 ●0-3履正社

 24年春=準々決勝敗退 ●1-4報徳学園

 24年夏=2回戦敗退 ●0-3小松大谷

昨春の「新バット」以降、打てなくなった
 昨年までの3年間で、甲子園出場を逃したのは一昨年夏の1度だけ。センバツ優勝のあとも、甲子園で初戦敗退はなく、直近の出場となった昨夏も、1回戦で好投手を擁する興南(沖縄)に快勝していた。この間に起こった大きな出来事と言えば、昨春の「低反発新基準バット」(新バット)の導入だ。この新バットが、大阪桐蔭の不振を決定的なものにしたと言ってもいい。つまり、「打てなく」なったのだ。

春夏連覇を狙ったが「三重殺」で暗転
 さかのぼって3年前の春の優勝時は、実質的なエースが2年生左腕の前田悠伍(ソフトバンク)で、捕手の松尾汐恩(DeNA)や海老根優大(SUBARU)ら、長打力のある打者も揃っていた。3度目の春夏連覇の期待がかかった夏は、順調に準々決勝まで勝ち上がったが、下関国際にまさかの逆転負けを喫した。この試合のポイントは1点リードの7回に、無死1、2塁からバントエンドランを仕掛け、小飛球から三重殺となったシーンだ。結果的にとどめを刺せず、9回に逆転されるのだが、これが大阪桐蔭の不振のきっかけとなったような気がしてならない。

弱点をカバーできなくなってきた
 翌23年は前田の投球に頼る場面が多く、エースに負担がかかるチーム構成となった。投手層の厚い大阪桐蔭にしてはきわめて珍しい状況で、それだけ前田の存在が大きかったとも言える。センバツでは、前年秋の近畿大会で完封していた報徳学園と準決勝で当たり、前田が打たれて逆転負け。夏は大阪大会は、調整遅れの前田がようやく間に合ったものの、決勝で打線がエースを援護できず、履正社の福田幸之介(中日)に3安打無得点に封じられた。このあたりから、少しずつ、弱点をカバーできないチームになってきた印象で、これは昨季のチームにも当てはまる。秋は近畿大会で優勝したが、神宮大会では守備の乱れで関東一(東京)に敗れ、センバツでは準々決勝でまたも報徳に完敗。この試合も守備でのもたつきが敗因となった。

夏は失策から失点して敗退
 ライバルの履正社を圧倒するなど、大阪大会で別格の強さを見せた昨夏は、2年生投手陣に期待が集まった。中野大虎が、初戦で興南を完封すれば、2回戦では森陽樹が、小松大谷に対し6回まで無失点の快投。しかし全く援護がない。均衡が破れたのが7回。1死1、2塁から併殺を焦った遊撃手が、間に合わない一塁手へ悪送球し、1点を献上。さらにがっくりきた森から適時打で突き放された。課題の守りが崩れての終盤の失点で、またも弱点が露呈しての2回戦敗退となった。そして始動した新チームは、2本柱を中心に、投手陣は万全と思われた。

秋はダブルエース奮闘も、大阪、近畿で苦杯
 秋の大阪大会は、前チームで敗戦の経験がある大阪学院大高に3-0と完勝し準決勝を突破。今チームで主将となった中野が5安打完封で、6年連続のセンバツへ視界は良好と思われた。しかし履正社との決勝では中野が3回に5安打を浴びて4点を失うと、1点差に迫った直後に救援した森も、4点を献上。3-8で完敗した。そして近畿大会では滋賀学園に対し、1点リードの中盤に森が満塁から押し出し四球と適時打で逆転を許し、2-3で敗れた。この試合、投手に関してはさほど問題ではない。森を救援した中野は3回1/3を1安打無失点で、2本柱で計3失点なら力関係からしても許容範囲だろう。

圧勝した練習試合とは違う投手に戸惑う
 問題は、攻撃陣にある。西谷浩一監督(55)は「予想した投手と違い、思ったより変化球が多かった」と、想定外の投手に対応しきれなかったことを悔やんだ。両校はこの試合のほぼ1か月前に練習試合を行い、大阪桐蔭が7-0で圧勝していた。この試合の滋賀学園の投手は、夏の甲子園でも好投した土田悠貴(2年)で、山口達也監督(53)も「ボッコボコにやられた」と話していたが、近畿大会でマウンドに上がったのは186センチの長身右腕・長崎蓮汰(2年)だった。山口監督が「変化球でストライクが取れる」と話すように、長崎はうまくタイミングを外し、凡打を量産して完投勝ちした。以前の大阪桐蔭だったら終盤、中野が好投している間に、流れを変えられたはずだ。

今チームは流れを変えられる強打者不在
 今チームの弱点は、ずばり「打線の迫力不足」だ。前チームには西武に進んだラマル・ギービン・ラタナヤケや早大進学の徳丸快晴ら、一発長打を秘めた強打者がいた。今チームには、流れを変えられるような一撃の期待できる打者が、なかなか見当たらない。前チームから出ている遊撃手の宮本楽久(2年)や、外野手の畠中健太(2年)らが攻撃の中心となるが、好打者の域を出ない。それに輪をかけて、昨春からの「新バット」が大きな逆風となった。前チームの主力は、2年生の秋まで旧バットを使っていたからある程度は仕方ないとしても、現在の2年生は、準備期間を含めても1年以上は新バットで戦っている。そろそろ使いこなせてもいい頃だろう。

コールド負けしたチームは24連勝した
 滋賀学園に負けたあと、西谷監督は「夏一本に絞ってやるしかない」と悲壮な決意を語っていた。常勝が宿命づけられた高校球界のトップチームとはいえ、勝ち続けることは不可能に近い。12年前の秋、大阪桐蔭は大阪大会4回戦で、ライバルの履正社にコールド負けした。当然、甲子園チャンスは夏しか残らない。その後チームは、春、夏と大阪で履正社を破り、公式戦24連勝で、夏の甲子園の頂点に立った。現在、指導陣に加わる中村誠コーチ(28)が主将だった世代だ。今チームの状況は、その時によく似ている。98年ぶり、大阪勢不在のセンバツは大きな衝撃を持って受け止められた。秋の屈辱から、夏の「倍返し」を誓って、大阪桐蔭の選手たちは、厳しい冬と戦っている。

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