高校野球あれこれ 第185号
「このチームで勝たれへんのかと…」
甲子園、強打・大阪桐蔭“衝撃の完封負け”はなぜ起きた?
理想のフルスイングと現実との“ズレ”
目を逸らしてはいけない敗戦、と言えるかもしれない。
2度の春夏連覇を達成し、今大会も6年ぶりの夏の覇権を狙った強豪・大阪桐蔭が2回戦で敗れた。同校が夏の選手権で完封されたのは初めてだという事実が、この敗戦の衝撃を物語っている。
「選手たちとゲーム中も話しましたけれども、試合が終わって整理がついている部分もありますし、ついてない部分もある。冷静に振り返って話したいと思います」
大阪桐蔭・西谷浩一監督が、努めて冷静さを保とうとしていたのが印象的だった。敗因を矢継ぎ早に質問されても表情を変えない指揮官の様子はいつも通りだったが、「しぶとく粘り強くをモットーにやってきましたけれども、最後の力及ばず、残念というか無念です」という言葉に悔しさが滲んでいた。
大阪桐蔭がここまで打てないとは
これほど打てない大阪桐蔭を見たのは初めてかもしれない。大阪大会でも、準決勝の履正社戦こそ最高の試合運びを見せたが、5回戦、準々決勝、決勝戦と迫力に欠けた打線はこの夏の大阪桐蔭の象徴だった。
「記事読みましたよ。やっぱり、低反発の影響で追加点の長打が出ないです」
大会1回戦の後、そう話したのは橋本翔太郎だ。西谷監督をグラウンドで支えるコーチである。橋本コーチが感想を述べてくれたのは、筆者が大阪大会後に書いた記事のことだ。大阪桐蔭の打線は活発だが、もう一本が出ないのはバットの影響もあると指摘した。
投手の安全面を考慮して、この春のセンバツから導入された新基準の低反発バットは、全国の球児に新たな課題を突きつけている。今大会も19試合目までホームランが出なかったという事実が、このバットを扱う難しさを証明しているだろう。かつては5点差でもセーフティリードではないと言われた野球は消滅し、今大会はここまで、終盤で3点差以上の試合はひっくり返っていない。
指導者たちが口を揃えるのは「フライを打つと失速する」という言葉だ。だから、低くて強い打球を打つ必要がある。
下級生の頃からチームを引っ張って来た選手の一人、境亮陽はいう。
「低反発バットに対応するために必要だったのは、パワーをつけること。ロングヒットは出にくいので、低い打球を意識しながら、それが長打になるようにと心がけています」
もっとも、大会に出場している指導者たちは低反発バットの影響を口にしたがらない。「みんな同じルールでやっていますから」。13日に敗れた智弁和歌山の中谷仁監督も、西谷監督も、判を押したように同じ言葉を口にした。
その同じルールの中でどんな野球を展開していくかが重要ということだが、監督のマネジメントとして、難しさがあるのも事実だろう。バットが変わっても野球を変えずに戦うのか、それとも、多少なりとも、低反発バットを意識したような野球をするのか。
フルスイングと、勝つための野球の狭間で
12得点を挙げてコールド勝ちした大阪大会準決勝・履正社戦での大阪桐蔭は、確実に野球のスタイルを変えてきていた。それを貫く難しさ、もともと染みついた野球からどう離れていくか。本大会の2回戦は、そんな課題に直面した敗戦だった。
「やる限りは理想のバッティングを追いかけたい。でも、大会に勝っていく上ではどんな打撃をしていくかは難しい問題です」
大阪大会のある日、西谷監督はそう話している。つまり本来は、これまでと同じようなフルスイングをしながら、バットに対応していける技術を鍛えていきたい、という願望はあるのだ。しかし、低反発バット導入直後の今、勝利との狭間でどういう野球をしていくか、というジレンマは避けられない。
実際、この日の大阪桐蔭打線の打撃が全て悪かったわけではない。
3回裏、二死二塁から右翼へ快音を放った4番・徳丸快晴のバッティングには目を見張った。
だが、ライトを超えるようにも思えた痛烈な打球は、相手右翼手が一瞬ファンブルしたあと、グラブに収められた。あとひと伸びが足りなかったのだ。
20年以上、甲子園の大会を全試合見てきた筆者の経験の中でも、完璧に捉えたように見えた一打だった。しかし、その打席について会心だったかと問うと、徳丸は意外な感想を語った。
「いい感じでは打っていたんですけど、そこまで感触は良くなかったんです。あれがヒットにならないというのは、自分の力のなさだなと思います。もっと練習して自分をレベルアップしていかないといけないと思った」
打球の見た目と、選手たちの感覚のズレ
選手たちは微妙に感じとっている。自身の技術と、現実のわずかなズレをだ。
7回裏に代打で打席に立ち、左中間への飛球を放ったラマルもいう。
「少し開いてしまって、先っぽで打ってしまった打球でした。あの打撃はいい当たりではないなと思いました。低反発バットでは、しっかり捉えないと飛ばないです」
西谷監督は、敗因にフライアウトが多かったことを挙げているが、それは正確にいうと、「捉えた」フライアウトではなかったことに大きな要因があった。そこに選手たちは課題を感じたというわけである。
「この敗戦はショック」
「この敗戦はショックですね。このチームで勝たれへんのかと思います」
橋本コーチはをそう本音を覗かせた。メンバーは揃っているはずだった。取り組みもしっかりしていたし、過去の優勝チームにあった“徹底する力”も感じていた。
「試合前の雰囲気も良かったし」
おそらくチーム作りの問題ではないだろう。要因は他の何かにある。
周知のように、平成以降の大阪桐蔭のプロ輩出率は高い。
6度のホームラン王・中村剛也(西武)を筆頭に、打点・本塁打のタイトルをもつ浅村栄斗(楽天)、首位打者とMVPを獲得した森友哉(オリックス)、打点王などのタイトルがある中田翔(中日)など、各チームの4番クラスを育て上げてきた。中村の頃は甲子園に出ることも難しいような時代だったが、それでも、選手に高い打撃技術を身につけさせ、プロでも通用するほどの高いレベルにして送り出すことができていた。
卒業後に力を発揮できなくなっている?
しかし、2度目の春夏連覇を果たした2018年以降、甲子園での活躍とは裏腹に、OBには以前のような勢いはない。黄金世代といわれた根尾昂(投手に転向)、藤原恭大らはプロに進んだものの、レギュラーを獲得できずにいる。大学に進んだ中川卓也、山田健太もドラフト指名漏れの憂き目に遭うなど、苦しい状態ではある。
以前は通用したバッティング技術で、2018年以降の選手が壁にぶち当たっているのは何らかの課題があってのことだろう。そして今年、バットの規格変更があったなかで初の完封負け。これは何かを変える必要がある。
「時代が変わらないようにしたいと思います」
取材時間終了のお知らせと同時に、橋本コーチがこの敗戦を重く受け止めるようにそう口にしたのは、危機感の裏返しだろう。
「力をつけて、ここぞの場面で打てるようなバッターになりたいと思います。将来的にはプロの世界で活躍できるような選手になりたい。こういう経験を生かしてやっていくしかないと思います」
徳丸はそう語り、これからの野球でこの敗戦を生かしていくと誓った。
現チームに突きつけられた課題。
それは大阪桐蔭の打撃から、かつて身につけていたものが失われていたということ。そのことが低反発バットによって、暗に知らされたような気がする敗戦だった。
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理想のフルスイングと現実との“ズレ”
目を逸らしてはいけない敗戦、と言えるかもしれない。
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「選手たちとゲーム中も話しましたけれども、試合が終わって整理がついている部分もありますし、ついてない部分もある。冷静に振り返って話したいと思います」
大阪桐蔭・西谷浩一監督が、努めて冷静さを保とうとしていたのが印象的だった。敗因を矢継ぎ早に質問されても表情を変えない指揮官の様子はいつも通りだったが、「しぶとく粘り強くをモットーにやってきましたけれども、最後の力及ばず、残念というか無念です」という言葉に悔しさが滲んでいた。
大阪桐蔭がここまで打てないとは
これほど打てない大阪桐蔭を見たのは初めてかもしれない。大阪大会でも、準決勝の履正社戦こそ最高の試合運びを見せたが、5回戦、準々決勝、決勝戦と迫力に欠けた打線はこの夏の大阪桐蔭の象徴だった。
「記事読みましたよ。やっぱり、低反発の影響で追加点の長打が出ないです」
大会1回戦の後、そう話したのは橋本翔太郎だ。西谷監督をグラウンドで支えるコーチである。橋本コーチが感想を述べてくれたのは、筆者が大阪大会後に書いた記事のことだ。大阪桐蔭の打線は活発だが、もう一本が出ないのはバットの影響もあると指摘した。
投手の安全面を考慮して、この春のセンバツから導入された新基準の低反発バットは、全国の球児に新たな課題を突きつけている。今大会も19試合目までホームランが出なかったという事実が、このバットを扱う難しさを証明しているだろう。かつては5点差でもセーフティリードではないと言われた野球は消滅し、今大会はここまで、終盤で3点差以上の試合はひっくり返っていない。
指導者たちが口を揃えるのは「フライを打つと失速する」という言葉だ。だから、低くて強い打球を打つ必要がある。
下級生の頃からチームを引っ張って来た選手の一人、境亮陽はいう。
「低反発バットに対応するために必要だったのは、パワーをつけること。ロングヒットは出にくいので、低い打球を意識しながら、それが長打になるようにと心がけています」
もっとも、大会に出場している指導者たちは低反発バットの影響を口にしたがらない。「みんな同じルールでやっていますから」。13日に敗れた智弁和歌山の中谷仁監督も、西谷監督も、判を押したように同じ言葉を口にした。
その同じルールの中でどんな野球を展開していくかが重要ということだが、監督のマネジメントとして、難しさがあるのも事実だろう。バットが変わっても野球を変えずに戦うのか、それとも、多少なりとも、低反発バットを意識したような野球をするのか。
フルスイングと、勝つための野球の狭間で
12得点を挙げてコールド勝ちした大阪大会準決勝・履正社戦での大阪桐蔭は、確実に野球のスタイルを変えてきていた。それを貫く難しさ、もともと染みついた野球からどう離れていくか。本大会の2回戦は、そんな課題に直面した敗戦だった。
「やる限りは理想のバッティングを追いかけたい。でも、大会に勝っていく上ではどんな打撃をしていくかは難しい問題です」
大阪大会のある日、西谷監督はそう話している。つまり本来は、これまでと同じようなフルスイングをしながら、バットに対応していける技術を鍛えていきたい、という願望はあるのだ。しかし、低反発バット導入直後の今、勝利との狭間でどういう野球をしていくか、というジレンマは避けられない。
実際、この日の大阪桐蔭打線の打撃が全て悪かったわけではない。
3回裏、二死二塁から右翼へ快音を放った4番・徳丸快晴のバッティングには目を見張った。
だが、ライトを超えるようにも思えた痛烈な打球は、相手右翼手が一瞬ファンブルしたあと、グラブに収められた。あとひと伸びが足りなかったのだ。
20年以上、甲子園の大会を全試合見てきた筆者の経験の中でも、完璧に捉えたように見えた一打だった。しかし、その打席について会心だったかと問うと、徳丸は意外な感想を語った。
「いい感じでは打っていたんですけど、そこまで感触は良くなかったんです。あれがヒットにならないというのは、自分の力のなさだなと思います。もっと練習して自分をレベルアップしていかないといけないと思った」
打球の見た目と、選手たちの感覚のズレ
選手たちは微妙に感じとっている。自身の技術と、現実のわずかなズレをだ。
7回裏に代打で打席に立ち、左中間への飛球を放ったラマルもいう。
「少し開いてしまって、先っぽで打ってしまった打球でした。あの打撃はいい当たりではないなと思いました。低反発バットでは、しっかり捉えないと飛ばないです」
西谷監督は、敗因にフライアウトが多かったことを挙げているが、それは正確にいうと、「捉えた」フライアウトではなかったことに大きな要因があった。そこに選手たちは課題を感じたというわけである。
「この敗戦はショック」
「この敗戦はショックですね。このチームで勝たれへんのかと思います」
橋本コーチはをそう本音を覗かせた。メンバーは揃っているはずだった。取り組みもしっかりしていたし、過去の優勝チームにあった“徹底する力”も感じていた。
「試合前の雰囲気も良かったし」
おそらくチーム作りの問題ではないだろう。要因は他の何かにある。
周知のように、平成以降の大阪桐蔭のプロ輩出率は高い。
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卒業後に力を発揮できなくなっている?
しかし、2度目の春夏連覇を果たした2018年以降、甲子園での活躍とは裏腹に、OBには以前のような勢いはない。黄金世代といわれた根尾昂(投手に転向)、藤原恭大らはプロに進んだものの、レギュラーを獲得できずにいる。大学に進んだ中川卓也、山田健太もドラフト指名漏れの憂き目に遭うなど、苦しい状態ではある。
以前は通用したバッティング技術で、2018年以降の選手が壁にぶち当たっているのは何らかの課題があってのことだろう。そして今年、バットの規格変更があったなかで初の完封負け。これは何かを変える必要がある。
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