高校野球あれこれ 第179号

大阪桐蔭健大高崎報徳学園…優勝候補はなぜ敗れたのか?
上位進出校の勝利の秘訣は?見えてきた「高校野球の変化」


 夏の甲子園もいよいよ準決勝を迎えた。勝ち残った4校、青森山田、関東一、京都国際、神村学園はいずれも優勝経験がない。

一方で、甲子園常連校、優勝経験校は苦しんだ。特に前評判も近年の実績も高かった5校、花咲徳栄・報徳学園・健大高崎・智辯和歌山・大阪桐蔭の早々の敗退は、高校野球の質が変わったことを如実に感じさせた。

 この5校の敗退パターンを振り返ると、

 ・先制点を取られたのが3チーム

 ・先制点を取ったが、逆転されたのが2チーム


 

 名門5校は、なぜ敗れたのか。

焦って早打ち、チャンスをつぶした結果、流れを持って行かれた花咲徳栄

大会3日目1回戦 新潟産大附(新潟)2-1花咲徳栄(埼玉)

 世代屈指のスラッガー・石塚 裕惺内野手(3年)を擁する花咲徳栄は、2回裏に犠飛で1点先制。石塚も好走塁を見せ、花咲徳栄のリズムで乗るかと思われたが、相手の新潟産大附の好守備、そして走塁ミスでチャンスを潰し、2点目が取れない嫌な流れが続く。

 そんな中で、じわじわと攻めていた新潟産大附に6回表、7回表にいずれも二死三塁から適時打を打たれて逆転される。花咲徳栄は相手の技巧派右腕を打ち崩せず、頼みの石塚は4打数1安打に終わった。埼玉大会では140キロ超えの右腕、左腕を攻略してきた強力打線だが、凡フライが多くあった。試合後、石塚は「相手の攻めも研究していた通りだったのですが、焦って打てませんでした」と悔やんだ。

 花咲徳栄は投手のレベルも高く、新潟産大附の走塁を警戒し、内外野も緊張感を保ってプレーしているのが伝わった。一方で打線は、焦って早打ちになり、持ち味を出せなかった。

 ミスでチャンスを潰した花咲徳栄。結果、相手に流れをもって行かれ、甲子園を去った。

初回のストレート勝負がアダに……堅守も乱れ、大社に主導権を握られた報徳学園

大会5日目1回戦 大社(島根)3-1報徳学園(兵庫)

 センバツ準優勝の報徳学園が初戦敗退。すべては初回で決した。報徳学園はエースの今朝丸 裕喜投手(3年)が先発したが、いきなり2失点。今朝丸が初回に投じた球数は23球のうち、ストレートは17球。その直球を狙い撃ちされて、3安打を打たれた。徳田 拓朗捕手(3年)は「大社打線はストレートだけではなく、スライダー、フォークもくらいついていました。ただストレートばかりになってしまったのは反省です」と語った。また、守備のミスで併殺を取れないなど“堅守の報徳”らしくない場面もあった。

 2回以降、スライダー、フォークを交えた配球に切り替えてからは、6回まで8奪三振。先制打を放った大社の5番下条 心之介外野手(3年)は「直球だけならば、速い球を打つ練習をしていたので、打てたのですが、スライダー、フォークも混ぜられると打てないです…」と語っていただけに、初回の配球は悔やまれる。

 今年の報徳学園のチームカラーは先制点を挙げて守り勝つチーム。兵庫大会もすべて先制していた。失点を取り返せるような強力打線ではなかった。

 後手後手に回ってしまった報徳学園。試合後、大角 健二監督は「夏の甲子園の初回は難しい」と嘆いた。大社とは練習試合も行う間柄。大社の強さも、初回の重要性も理解していた報徳学園だったが、“甲子園の魔物”に飲み込まれたような敗戦だった。

対戦校の強力打線対策を突破できず…センバツ覇者の健大高崎は“まさかの貧打”に泣く

大会8日目2回戦 智辯学園(奈良)2-1健大高崎(群馬)

 センバツ覇者の健大高崎が智辯学園の田近 楓雅投手(3年)を攻略できず、逆転負けを喫した。甲子園では2試合18イニングでわずか2得点。出場校屈指の強力打線は沈黙した。

 そもそも群馬大会では7本塁打を記録。各打者のスイングは非常に鋭く、力強い打球を放っていた。攻略してきた投手のレベルも高かった。なぜ甲子園では打てなかったのか。

 対戦校は強力打線への対策を十分にとっていた。初戦で対戦した英明の清家 準投手(3年)も、智辯学園の田近もともに、低めの変化球を有効に使い、制球力も優れていた。守備陣も長打力のある打者たちに備えて、外野は深く守っていた。

 健大高崎の青柳博文監督は「警戒されるのは分かっていたこと。うまく対策ができなかった。選手たちの力を発揮できなかった我々の責任です」と語った。もうひとつ青柳監督が悔やんだのは9回表の守り。先頭打者に四球を与え、嫌な流れだったが、一死一、二塁のピンチで捕手前の打球を箱山 遥人捕手(3年)がジャンピングスローでフォースアウトに仕留める。ビッグプレーで勢いに乗ったかに見えたが、二死一、二塁から智辯学園・佐坂 悠登内野手(3年)に投じた初球のスライダーが高めに浮いてしまい、適時打を浴び、決勝点となってしまった。

 青柳監督は「佐坂くんを迎える前に伝令を送って、しっかりと間を取るべきでした。智辯学園で一番警戒していた打者でしたので」と悔やんだ。

 投手陣はセンバツの二枚看板・佐藤 龍月投手(2年)がヒジの負傷でベンチ外となり不安視されたが、2試合で2失点と一定の仕事を果たした。しかし、看板の打線が苦しんだ今大会だった。

智辯和歌山の初戦敗退は必然!?“強烈2本塁打”の裏にあった大きすぎる課題

大会7日目2回戦 霞ヶ浦(茨城)5-4智辯和歌山(和歌山)

 初戦敗退を喫した2021年の覇者・智辯和歌山。0対3で負けていた8回裏に2本塁打で同点に追いついたが、延長11回に2点を失い、逆転サヨナラとはならなかった。

 今年の智辯和歌山の戦力、ゲームプランをベスト8に進出した学校と比較すると、この敗退は必然だったとも言える。霞ヶ浦の技巧派左腕・市村 才樹投手(2年)に対し、フライを上げ続けた。ベンチからは「ライナーを打て」との指示があったというが、結果として8アウトがフライ。また、タイミングが取れず5三振。そして強引に体が開いて内野ゴロの併殺が2つ。本塁打2本で同点にしたのを見れば、打球を飛ばす能力は確かに高いのだが、粗さが目立った。

 また、守備ではこの試合、3失策。打球反応速度、打球処理、カバーリングのスピードなどを見ると、ベスト8進出した学校と比べて著しい差があった。現在の智辯和歌山の走攻守で全国で勝負できるレベルにあるのは、140キロ超えの投手が揃った投手陣のみ。戦術、打撃の対応力、守備など全国で勝ち上がるための課題は満載だ。

 智辯和歌山の卒業生は多くのベンチ入り選手が大学で野球を継続する。甲子園で勝つためだけではなく、これらの課題はどのステージで活躍するためにも必須のスキル。腰を据えて、強化に取り組むべきだと思う。

総合力は申し分ないものだったが…“淡白さ”が敗戦につながった大阪桐蔭

大会8日目2回戦 小松大谷(石川)3-0大阪桐蔭(大阪)

 今年の大阪桐蔭の選手たちを見ると、高校生はいつでも同じパフォーマンスができるわけではないことを改めて痛感した。これほどの選手たちでも淡白なパフォーマンスで終わってしまう時がある。

 初戦の興南戦では大会屈指の左腕・田崎 颯士投手(3年)から5得点。今、振り返っても田崎の基礎能力の高さは左腕では今大会でも上位に入る投手だった。

 だが、小松大谷の西川 大智投手(3年)を攻略できず、7回に先制点を許し、そのまま完封負けを喫した。西川はいわゆる超高校級の実力を持った投手ではない。135キロ前後の直球、スライダー、カーブ、チェンジアップなど丁寧に投げ分ける技巧派右腕。抜群のコントロールがあるわけではなく、ストレートは適度に荒れて、打ちにくさがある。

 この代に限らず、歴代の大阪桐蔭打線がこのタイプの右腕に封じられる姿は見たことがなかったので、驚きであった。境 亮陽外野手(3年)は「ボールが荒れるので、狙い球が絞りづらかった」とこぼす。他の選手たちも「決して打てない投手ではないですが、うまく捉えられませんでした」と悔やんでいた。

 西谷浩一監督は「夏はどのチームも強いですし、気迫を持って臨んできます。我々もそのつもりでやってきましたが、それに及ばなかっただけです。高校生なので、できる時とできない時があります」と敗戦を振り返った。

 投手陣は強力、課題だった守備もかなり良くなっていた。初戦の興南戦の試合内容は申し分ないもので、波に乗れる勝ち方だった。だからこそ、惜しい敗戦だった。

ベスト8進出のチームは何が違うのか?

 これら5校の名門とベスト8進出したチームは何が違うのかといえば、以下の3点が挙げられる。

 ・相手に応じた戦略を忠実に実行できる

 ・パフォーマンスに波がない

 ・イニングの勝負所が分かっている


 今大会、8強までの2試合で自責点0の快投を見せた東海大相模の藤田 琉生投手(3年)は、初戦の富山商戦では相手が直球狙いと把握し、変化球主体の投球で組み立て、7回13奪三振。またどの試合でも140キロ台の直球、鋭い変化球を投げ、コンディション調整もしっかりしており、悪い日がなかった。

 京都国際の奥井 颯大捕手(3年)は相手打者はもちろんだが、審判の傾向を掴んで配球していた。

「甲子園の審判さんは広く取ってくれるなと思います。京都の審判さんの中には、狭い人もいるので。横を広く取ってくれたり、高低を取ってくれるのか。それによって考えています」

 それが京都国際の投手陣の持ち味を引き出し、4試合で3失点。そのうち3試合は完封勝利という結果につながった。

 クーリングタイム後の6回表の先頭打者もポイントのひとつだ。

 神村学園は2回戦の中京大中京戦で6回表に先頭打者の正林 輝大外野手(3年)の四球をきっかけに逆転。小田大介監督も「あの四球が大きかった」と語る。

 関東一は3回戦6回表の先頭打者・坂本 慎太郎外野手(2年)が四球で出塁。その後、適時打で勝ち越しのホームを踏んだ。坂本は「次を打つ徹平(高橋)さんら良い打者が続くので、何としても出塁するつもりでした」と語る。

 そして敗れた明徳義塾・馬淵史郎監督はこの場面を悔やんだ。

「あの四球は痛かった。接戦時のクーリングタイム明けは難しく、どちらかというと先攻めが有利なんですよね」

 今年の夏もあと3試合。勝つための戦略、そして試合を分けるターニングポイントでの選手たちの動き、表情、ベンチの動きにも注目をしてほしい。

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