高校野球あれこれ 第76号

謹賀新年

高校野球の名将「“野球の上手い子が逆上がりできない”ってよくあるの、知ってます?」甲子園優勝監督が岡山で“単身赴任”…驚きの毎日



 秋の熊野(三重県)に強豪高校チームが集まり、迎え撃つ地元チームも交えて練習試合を行なう。恒例の催しが、今年も紀伊半島の熊野市を中心に、2日間にわたって開催された。



 今年の参加校は、北から、弘前東高、鶴岡東高、健大高崎高、昌平高、関東一高、敦賀気比高、岐阜城北高、京都国際高、大府高、創志学園高……そして地元からは、津田学園高、近大新宮高、近大高専、昴学園高、尾鷲高の合計15校。



 地元の人の言うところの「向かいはハワイ」……熊野灘の雄大な水平線を前に、背後には、紅葉盛りの熊野の山々がそびえる。



単身赴任で岡山へ「ビックリだらけですね」

 そんな大自然の中の5つの球場で行われた今年の「熊野」。そんな試合会場の1つ、「熊野スカイパーク球場」に岡山・創志学園高を率いてやって来た門馬敬治監督(53歳)を見つけた。



 1999年から22年にわたる東海大相模高野球部監督を辞して、門馬監督が創志学園高の指導を始めたのが、新チームになった今年の8月。



 およそ1年間のブランクを経て、再び、高校野球の現場に復帰されたわけだが、選手たちへの鋭いアプローチは変わらない。



「田中(仮名)、どうして右手を離して打つの?」



 一方通行の指示ではなく、その理由を求める。



「元気そうに見えます? あはは、そうですか、おかげさまで元気にしてます」



 真っ黒に焼けた笑顔とまなざしに力があったから、安心した。



 新しい所で、いろいろビックリしたこともあったでしょ? 



「ありましたよ、あれも、これも、ビックリだらけですね」



 単身赴任で岡山に移り住んで、食事も家事も、全部自分でこなさねばならない日常。



「練習から戻って21時過ぎですから。それから自炊っていっても、できませんよね、実際は。そのへんでお惣菜買ってきて……」



「食べ残しの多さに驚いた」

 創志学園グラウンドから岡山の中心部に戻るのに、車で小一時間。グラウンドのすぐ裏にお宅のあった「相模時代」とは、「職・住」からもう違う。



 選手寮も清掃から改善した。



「それと、食事ですね。食堂の配膳と皿洗い、私、この3カ月、ずっとやってきました。どんな食べ方をするのか、どんな顔で食べているのか……食べている時って、ほんとの姿が出るじゃないですか。グラウンド以外での、彼らの姿が見たかったんでね」



 食べ残しの多さに驚いたという。



「選手たちの食べ残しだって、考えたら寮費の一部なんです。つまり、親御さんに出してもらってる寮費の一部を捨ててるわけですよ。で、足りないから補食になるようなものを、家から送ってもらって、カップラーメンとか食べてる。これじゃあ、親御さんはお金がかかってしょうがないでしょ。それなら、寮の食事をしっかり食べてもらって、補食に使ってるお金を“野球”のために使ってもらったら、ずっと選手のためになると思うんです」



“捕手で4番”にあえてショートを経験させる

 野球そのもののほうも、「相模」に比べれば……というカルチャーショックはあるが、決して悪くないという。



「ただ、僕の感覚からいうと、まだいろんな意味で、野球が緩い。たとえば、スイングひとつにしても、インパクトでバチン! といく瞬発力。フィールディングなら、スタートの1歩目や、捕って投げる連続動作のメリハリ。でもね、選手たちも3カ月頑張って、だいぶ良くなってきましたよ」



 捕手で4番の竹本佑選手(2年生・183cm83kg・右投右打)。プロもその成長を楽しみにしているといわれるその大型捕手には、この秋、ショートのポジションでノックを受けて、捕球→送球の連動のスピードと、一瞬のキレ味を養ってもらっているという。



「瞬発力とか、一瞬の動作のメリハリって、要は体の強さですから、ここから春までの3カ月、4カ月が勝負だと思ってます。この冬のトレーニングで、選手たちが、体幹とか下半身の強さをどれだけアップできるか……冬はどうしても単調な練習になりがちですから、そこで選手たちがどれだけ“我慢と辛抱”を覚えてくれるか。それはねぇ……僕自身にとっても、我慢と辛抱になると思いますよ。選手と僕の根比べ。でも、それは、選手にとっても、僕にとっても、どうしても越えなきゃいけない壁だと思ってますから、その先を目指すためにね」



「野球の上手い子が逆上がりできないって、知ってます?」

 門馬監督には、この先に、いくつかのビジョンがあるようだ。



「野球以外のことをさせたいなぁ……野球以外のスポーツとか、あとは一見野球とは関係ないように思えるもの……」



 アメリカの高校選手、大学選手が寒い時期、アメリカンフットボールとかバスケットボールに取り組んでいることは、ずいぶん以前から聞いている。



 向こうのものは、割とすぐに取り入れるこちらの野球界で、そういえば、冬季の過ごし方については、昔からそんなに変わっていないようにも思う。



「野球の上手い子が、逆上がりできないとか、マット運動でも、前転からもうできないって珍しくないの、知ってます?」



 実は、私自身がその一人である。



「アメリカの高校生が、冬のアメリカンフットボールで、あの変形のボールをまっすぐ投げようとして、正しい腕の振りを覚えるとか……複数のスポーツをすることで、体の動きのバリエーションは必ず増える。野球の実戦って、思いがけないボールの動きとか人の動きがよくありますから。練習したことないからエラーしました……じゃ、すまないわけで、とっさにアウトにするための動きや、セーフになるための動きができないと。甲子園とか、レベルの高い戦いになるほど、とっさに何ができるか……そこが、勝負に直結してくるんです」



 プレー以外での効果も期待している。



「野球しか知らないと、野球もわからなくなってくるように思うんですよ。壁に当たった時に、どんな切り抜け方をするか。考え方にバリエーションがあると、ずいぶん違う。発想の広がり、視野の広がり。こっち側から考えるとこうだけど、反対側から考えたらこうかもしれない。思考の切り口が増えたら、思い詰めるってことがなくなると思うんで」



「ファーストベース回って、もうベースコーチ見てる…」

 自分の判断で、自分から動ける選手。そこにもつながってくるという。



「ファーストベース回って、もう(三塁の)ベースコーチ見てるバッターランナーが結構いたんです。打った球、見えてるんですよ。指示がないと動けないんじゃ、やってる本人がいちばんつまんないと思うんですよ。ベースコーチのいないシートバッティングとか、試合形式の練習やったりしてるんです」



 なんなら、いっそ監督さんのいない紅白戦だって、いいんじゃないか。選手同士がサインを出し合って。監督さんは、見物役にまわって。



「岡山は野球の国です。岡山東商、倉敷工業、倉敷商業……甲子園の常連、名門がいくつもあって。星野仙一さんはじめ、平松政次さん(岡山東商、元大洋)、松岡弘さん(倉敷商、元ヤクルト)……偉大な野球人の出身地でもある。中学野球のレベルも高いですよ、硬式も軟式も。兵庫、広島……負けず劣らず野球熱の高い県に挟まれて、やりがいのある土地だと思ってます」



 今は野球部の指導だけだが、来春、新学期からは社会科教員として、授業を持って教壇に立つ。



「学校での選手たちを見たいんです」



 今、それができないのが、なんとももどかしそうだ。



「学校での過ごし方を見ていると、彼らの人としての輪郭が鮮明になってくる。人という立体としての彼らが見えてくる。それを見定めて、そこからが本当の“指導”になってくると思うんです」



 試合と試合の合間の、そんなに長い時間じゃなかった。



 それなのに、これだけの「意気込み」が門馬監督から発信された。おそらく頭の中には、この先の「創志学園」という新たな宇宙での展開が、具体的なプランとしてぎっしり詰まっているのだろう。


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